牛首紬の魅力を再発見
2023年5月18日 10時16分着物通販サイト京都wabitas(ワビタス)では、日本三大紬の一つでもある加藤改石謹製牛首紬を取り扱っています。


加藤改石さんが2022年にお亡くなりになられて、今は「加藤手織り牛首つむぎ」と社名を変えられています。
そんな加藤手織り牛首つむぎさんに、着付け教室を主宰されている着付けの先生が、機織りなど製造工程を見学したいというご要望を頂きましたので、白生地屋の社長さんにも同行して頂いて、4人で行ってきました。

10年以上前にも行ったことがあったのですが、久しぶりの訪問となりました。
改石さんの後を継がれた息子さん(社長)に、製造工程の説明をして頂きました。この日は繭から糸を挽く座繰りよりからの手挽作業(のべひき)を二人の女性の方がされていました。
緯糸に使う加藤手織り牛首紬の特徴の一つでもある貴重な「玉糸」が出来る工程です。
加藤さんの牛首紬に使っている緯糸は100%玉糸を使われています。(これは凄いことなんです)
よく「玉糸織り」や「玉糸使用」のような紬を見かけますが、これらは何本かの生糸に交ざって1本が玉糸という織物で、加藤手織り牛首紬とは、使用比率が全く異なります。

《上の画像で、左の大きな繭が玉繭で、右は一般的な繭です》
何せ緯糸に100%玉糸を使用するので、沢山の玉繭を用意しないといけないということでした。
後で社長さんと奥様から、玉繭の状況について説明を聞けたのですが、日本にあった玉繭の殆どは加藤さんに入って既に使用されて、現在は国産の玉繭は殆どなく、中国からの輸入繭しかないため、現状から今後も中国の繭を買い付けすることになるそうです。
これほど沢山の玉糸を使用する機屋さんは、加藤さんだけしかなく、そのため国内の養蚕農家で玉繭に、力を入れて生産するところが無いということです。
中国の玉糸は国産の糸よりも綺麗すぎるため、織り上がった生地に、以前とは違う変化があり、製造されている加藤さんとしては、悩みの一つになっているようです。
話が少しそれましたが、そんな玉糸(緯糸)作りの工程で、「あま撚り」にする工程があり、あま撚りにすることで、牛首紬が着心地よくなることを、説明して頂けました。
加藤さんの奥様曰く、牛首紬は分厚い丈夫な生地ですが、あま撚りの糸で織っているので、実は通気性がいいという特徴を持っているのと、光沢があって絹本来の温もりを体感できる、「着心地のいい織物なんです」という説明をして頂きました。
【あま撚りについて】
普通の生糸よりも撚りの回転数が少ない糸を「あま撚り」といいます。京都wabitasで扱う商品の中で牛首紬以外に、長岡織物さんが織っている長井綾織りも、あま撚りの糸で織った織物で、長岡織物さんの品も凄く着やすいです。

《長岡織物の長井綾織り:あま撚りの織物》
この日は糸挽(のべひき)と機織りの作業を行っておられましたが、加藤さんでは糸作り~機織りまで生地が出来るまでの全ての工程を外部に出すことなく全て自分の所で一貫しておられます。
のべひき~管巻き~のべつむぎ~かせ練~糸はたき~糊付け~かせしぼり~かせくり~整経~管巻き~機織り
(全ての工程を加藤さんで行われています)
これら工程を一貫でされて出来上がった加藤手織り牛首紬ですが、よく「釘抜き紬」と言われますが、それらのいわれ等も聞きたく、社長さんと奥さんに色々と質問などしながら、加藤さんが作る牛首紬の魅力についてお話しました。
「釘抜き紬」という表現についてのいわれは様々なようで、どれも同じように、「布に打ち込んだ釘を引っ張っても、破れずに釘が抜けた」というようなことで、それだけ丈夫な生地だということです。
それよりも印象的だったのが、先に述べました緯糸(玉糸)を「あま撚り」にして織っているので、あれだけ丈夫で分厚い生地なのに、「通気性がある」ということでした。
撚りの強い糸で、打ち込みも強くした丈夫な織物は、通気性が悪く重たくて疲れるということを耳にするのですが、丈夫なのに通気性があるというのは、着物を着る人にとって本当にうれしいことです。
もう一つ言われて印象的だったのが、実際に加藤さんの牛首紬を着物にして着られている方が言われた、生のご意見を聞いたことです。
その方は、加藤さんの紬を昔に誂えて何十回と着用されてるのですが、「着れば着るほど、体に馴染んでいき、着心地がよくなっていきます」というようなことを言われてたということです。
何十回も着ているということは、クリーニングも何度もされていることになります。牛首紬はあま撚りのヨコ糸なので、最初は全体に糸が毛羽立っているのですが、着用てクリーニングを繰り返しているうちに、糸の毛羽立が取れていくんです。毛羽立が取れた着物の表面は見間違えるような光沢を放ち、古くなれば古くなるほど新品に見えるような輝きを放つようになります。
それは綸子(繻子)のような光沢だそうです。
それだけ何十回と着まわしても破れたりしない丈夫さがあるからこそだと思います。
手織り牛首紬は高価ではありますが、それだけ着回すことができ、着れば着るほど新品のような光沢が生まれ、通気性があって更に体に馴染んで着やすくなるということを考えると、高いだけの価値があるのはモチロン、決して高くないとも考えられます。
加藤手織り牛首つむぎの着物を持っておられる着物ユーザーの方々は、タンスにしまうだけでなく、どんどん着用して、その魅力を体感して頂ければと思います。
今回の訪問に際し、加藤手織り牛首つむぎの社長さん、奥様、働く皆様に改めて感謝したいと思います。
それと同時に、この牛首紬の魅力を、より多くのユーザー様に広めていきたいと思います。